1. 「あとちょっとだけ」が、3日続いている
水曜の夜。
カシコは、自宅のパソコンの前で、同じ資料を見つめていた。
先輩に確認をお願いする、企画のたたき台。
中身は、正直、もうほとんどできている。
でも、送信ボタンが、押せない。
あと、この表も、見やすくできる気がする
カーソルが、送信ボタンの上と、資料の間を行ったり来たりする。
「あとちょっとだけ整えてから」
——そう言い続けて、今日で3日目だった。
先輩は言ってくれてるんだけどね……
でも、いざ出すとなると、怖いんだってば
そのとき、キーボードの横に、
つやつやに磨き上げられた球体が、ころんと現れた。
きれいなのに、カシコの手のひらにぴったり張り付いて、
離れる気配がない。
(ナゾタマが、磨かれたまま、手から離れられずにいる)
ずいぶん、ぴかぴかのナゾタマだねぇ。
……なのに、飛べないみたいだ
モニターの上から、ワイズがのぞき込んでいた。
私、また出せてないんだ。
7割でいいって言われてるのに、直し続けちゃって
じゃあ、ひとつ聞いてもいい?
カシコが怖いのは、”未完成の資料”かな。
それとも、”未完成を見られる自分”かな
2. 「7割でいい」と分かっていても、怖いものは怖い
資料そのものより、
“この程度なんだ”って思われるのが、怖い
正直に言えたね。それ、大事なところだよ
“7割でいい”って頭で分かることと、
怖くなくなることは、別ものなんだよ
知識は頭に入る。
でも、怖さは体に残る。
だから、”分かってるのに怖い私はダメだ”って
責めるのは、順番が違うんだ
なくすんじゃなくて、
怖さの正体を、一緒に見てみよう
資料を”出す”って、どういうことだと思ってる?
提出、でしょ。
出したら、評価される。
点数がつく、みたいな
“出す”が”採点される”になってるんだ。
一発勝負のテストを出すみたいに
だから、答案を全部埋めてからじゃないと、
出せない気がしてたんだ
- 「7割でいい」と分かっていても怖いのは、「出す=採点される」と感じているから
3. 出すのは「答案」じゃなくて、「味見」
実は、テストの答案じゃないんだ
料理人はさ、完成したあとに初めて味を見る、
なんてことはしないでしょ
途中で何回も味見して、
“あ、塩が足りない”とか、直しながら作る
味見が早いほど、直せる幅は大きい。
完成してから”味が違う”って分かるのが、
いちばん悲しいんだ
それ、資料も同じか。
完璧に仕上げてから方向違いだったら、
全部やり直しだもんね
7割で出すのは、手抜きじゃない。
“早めの味見”なんだよ

“完成してないじゃないか!”って怒る人は、
あんまりいないでしょ
むしろ、味見の段階で聞いてもらえたら、
ちょっと嬉しいかも
4. 「たたき台です」と、先に言ってしまう
いざ送るときは、手が止まりそう
だからね、最後にひとつ、
小さな工夫を教えるよ
“未完成です”って、自分から先に
📌 たとえば、こんなひとこと。
『7割の段階ですが、早めに確認したくて』
『細部はこれからですが、骨組みはこれで進めてよいですか』
これなら、未完成なのが”前提”になってる
黙って出すと、未完成は”欠点”に見える。
でも、先に言っちゃえば、それは”仕様”になる
“ここまで見てほしい”って自分で線を引くと、
相手もそのつもりで見てくれる。
採点じゃなくて、味見をしてくれるんだ
📝 未完成を”仕様”にする、ひとこと
- 方向性だけ見てほしいとき:「たたき台です。方向性だけ見てもらえますか」
- 早さを優先したいとき:「7割の段階ですが、早めに確認したくて」
- 骨組みの可否を決めたいとき:「細部はこれからですが、骨組みはこれで進めてよいですか」
黙って出すと、未完成は「欠点」に見える。
先に言ってしまえば、それは「仕様」になり、相手も採点ではなく味見をしてくれる。
5. 早く出したから、早く分かった
金曜の朝。
カシコは、深呼吸をひとつして、メールに一行添えた。
「たたき台の段階ですが、方向性だけ先に確認させてください」
送信。
心臓が、ぎゅっと縮む。
——昼過ぎ、先輩から返事が来た。
「方向性これでOK!
あ、3ページ目の表は最終版では丸ごと不要かも。
先に見せてくれて助かった〜」
あの表、いらなかったんだ
カシコは、思わず画面を二度見した。
この3日間、いちばん時間をかけて磨いていたのが、
まさに、あの表だったからだ。
一生懸命ぴかぴかにしてたんだ……。
早く出してたら、早く分かったのに
ふと見ると、手のひらに張り付いていたナゾタマが、
ふわりと浮かんで、机の上をころころと転がった。
表面には、磨き残しの小さな凹みが、いくつか残っている。
でも、その凹みごと、なんだか身軽そうに見えた。

(ナゾタマは、ぴかぴかではなくなった。
そのかわり、手から離れられるようになった)
出せない10割より、出せる7割。
今日のカシコは、それを体験できたね
怖いまま出せたら、それだけで十分なんだ
ここまで読んでくださった、あなたへ。
「7割でいいと言われても、出すのが怖い」
「”あとちょっとだけ”と直し続けてしまう」
そんなカシコの姿に、心当たりがあった方も、いるかもしれません。
でも、それはあなたの性格のせいではありません。
「出す=採点される」と感じていれば、怖くて当たり前です。
- 「分かっているのに怖い」は自然なこと。知識と怖さは別もの
- 出すのは答案じゃなく「味見」。早いほど、直せる幅が大きい
- 「たたき台です」と自分から先に言えば、未完成は欠点ではなく”仕様”になる
今日からできるのは、ほんの小さなことだけ。
- 1出すときに「たたき台ですが、方向性だけ確認させてください」と一行添えてみる
- 2「完成度を上げる時間」と「方向を確かめる時間」、どちらが今必要かを一度だけ考えてみる
- 3怖いまま出せた日は、「怖いのに出せた」と、自分の中で小さく記録しておく
出せない10割より、出せる7割。
あなたのナゾタマも、ぴかぴかじゃなくていい。凹みごと、手から離れて飛べたら、それで十分です。
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