1. 「5分だけ」のはずが、40分たっていた夜
夜。
寝る前に、時間だけ確認しよう――
そう思って、カシコはスマホを手に取った。
時刻を見た、そのついでに、通知をひとつ開く。
そのついでに、タイムラインを少しだけ。
気づいたときには、画面の上の時計が、
40分も進んでいた。
私、いま何を見てたんだっけ
思い出そうとしても、出てこない。
誰かのごはん、誰かの旅行、知らない人のケンカ。
流れていった気がするだけで、何も残っていない。
別に、そうでもないんだよね。
むしろ、ちょっと疲れてる
なんで私、また開いちゃうんだろう
そのとき、枕元のあたりに、
ちかちかと明滅する、小さな球体が浮かんだ。
まるでスマホの通知ランプのように光っては消え、
目をそらしても、また光って、視線を引き寄せてくる。
(ナゾタマが、誘うように、ちかちかと光り続けている)
ずいぶん、まぶしいナゾタマだねぇ
ベッドのヘッドボードに、ちょこんとワイズがとまっていた。
私、またやっちゃった。
『5分だけ』のつもりが、こんな時間
じゃあ、ひとつ聞いてもいい?
その40分、カシコは見たくて見てたのかな
見たくて見てたに、決まって……
言いかけて、カシコは止まった。
見たかったもの、と聞かれると、
ひとつも思い浮かばなかったからだ。
2. やめられないのは、意志が弱いからじゃない
やめられない私の意志が弱いんだよね。
『見ない』って決めても、続かないし
SNSって、つい見ちゃうように、
すごーく上手に作られてるんだよ
スクロールしても、スクロールしても、終わりが来ない。
次に何が出てくるか、分からない。
たまに、すごく面白いものが混ざってる
『もうちょっとだけ』って思っちゃうやつだ
『次はいいものが出るかも』って感じると、
人の頭は、なかなか手を止められないんだ。
たくさんの大人が知恵を集めて、
そうなるように設計してるんだよ
じゃあ、私一人の意志で勝てないのって……
ある意味、当たり前なんだ
『やめられない私はダメだ』って責めるのは、
ちょっと相手が悪すぎる。
カシコが弱いんじゃなくて、向こうが強いんだよ
カシコは、明滅するナゾタマを見た。
ずっと、自分の意志の問題だと思っていた。
でも、この光は、そもそも目を引くように作られた光なのだ。
- SNSがやめられないのは、「つい見てしまう」ように設計されているから。意志の弱さのせいにしなくていい。
3. 「見たい」んじゃなくて、「すき間を埋めたい」
こっちの方が、実は大事かもしれない
何をしてるときが多い?
えっと……寝る前とか、
電車を待ってるときとか、
仕事の合間の、ぽっかり空いた時間とか……
じゃあ、その瞬間の気持ちは?
別に、何も……。
あ、でも、なんていうか……
間がもたない感じは、あるかも
お腹すいてないのに、
冷蔵庫を開けちゃうこと、ない?
『何かあるかな』って、つい開けて、
何もなくて、閉める
あれの、無限に補充される版なんだ
本当に見たいわけじゃない。
ただ、ぽっかり空いたすき間があると、
人は何かで埋めたくなる
そういうすき間にいちばん近くて、
いちばん手軽なのが、スマホだった。
それだけのことなんだよ
私、SNSが見たかったんじゃなくて、
すき間を、埋めたかっただけなんだ
カシコは、少し不思議な気持ちになった。
「やめられない」の正体が、
思っていたよりずっと、小さく見えたからだ。
- 開いてしまう本当の理由は、「すき間を埋めたい」であることが多い。

4. 禁止しなくていい。「ひと手間」だけ遠くする
やっぱり、アプリを消すとか……?
禁止って、実はあんまり続かないんだ
前に『見ない!』って決めたとき、
3日目くらいで、逆にすごく見たくなった
『見ちゃダメ』って思うほど、
頭の中はSNSのことでいっぱいになる
戦わなくていい。
ちょっとだけ、遠くすればいいんだ
📌 たとえば、こんな「ひと手間」。
奥のフォルダに引っ越しさせる
手の届かない場所で充電する
先に水を一口だけ飲む
どれも、すごく小さいけど

『つい』って動作はね、
考える前に、指が動いてるんだ
『あ、私いま開こうとしてたな』って、
気づく間ができる
気づけたら、そこで選べるんだ。
『このまま見る』でもいいし、
『今日はやめとく』でもいい
大事なのは、ゼロにすることじゃなくて、
『流されて見る』を、『選んで見る』に変えること。
それだけで、ぜんぜん違うんだ
5. 「気づけた夜」を、数えていく
数日後の夜。
カシコは、布団に入って、ふとスマホに手を伸ばした。
いつもの動き。いつもの指。
でも、アプリは昨日、奥のフォルダに引っ越したばかりだった。
ホーム画面のいつもの場所に、アイコンがない。
その、ほんの一瞬のつまずきで――
ただ、寝る前の間が、もたなかっただけだ)
カシコは、スマホをそっと枕の向こうに置いた。
部屋が、静かになる。
少しだけ、手持ちぶさたな感じがした。
でもそれは、思っていたほど、嫌なものじゃなかった。
すき間って、埋めなくても、大丈夫なんだ
ふと見ると、枕元のナゾタマが、
ちかちかとせわしなかった明滅をやめて、
ゆっくりと、静かな呼吸のような光に変わっていた。
(ナゾタマは、消えてはいない。
でも、もう視線を引っぱらなかった)
今夜は、選べた夜だったね
見なかった夜を数えるんじゃなくて、
気づけた夜を数えていけばいい
ここまで読んでくださった、あなたへ。
「分かっているのに、開いてしまう」
「気づいたら、時間だけが溶けている」
そんな夜を過ごしているカシコの姿に、
心当たりがあった方も、いるかもしれません。
でも、それはあなたの意志が弱いからではありません。
- SNSは「つい見てしまう」ように設計されている。一人の意志で勝てなくて当たり前
- 開いてしまう本当の理由は、「すき間を埋めたい」であることが多い
- 禁止はしない。「ひと手間」はさんで、「流されて見る」を「選んで見る」に変えていく
今日からできるのは、ほんの小さなことだけ。
- 1よく開くアプリを、ホーム画面の奥のフォルダにひとつ引っ越しさせてみる
- 2開きたくなったら、先に水を一口だけ飲んでみる
- 3見てしまった夜は、「間がもたなかったんだな」と、責めずに眺めてみる
すき間のいちばん近くに、たまたまスマホがあっただけ。
あなたのナゾタマも、明滅が落ち着いて、選べる夜が増えていけば、それで十分です。
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